レンタルオフィスについて知ろう


事務所を借りようと思ったとき、どうやって探します?
- 「エリア名+事務所」で調べる
- ネットで検索してヒットした仲介会社に問い合わせる
- (場合によっては)レンタルオフィスに問い合わせる
だいたいこんな感じなのかなと思います。
レンタルオフィスについては、内容をよく知らないという方も多いのではないかと思うので、今回はレンタルオフィスについて詳しく解説していきたいと思います。
レンタルオフィスとは
レンタルオフィスって直訳してしまうと「貸し事務所」になってしまいます。「普通の貸しビルと同じじゃん!」ってなるので直訳しないでくださいね笑
レンタルオフィスとは、こういう感じです↓

上の図の通りですが、
- オフィスビルのオーナーから、レンタルオフィス業者がビルの一部を賃貸借契約で借りる
- レンタルオフィス業者が専有部分を細かく区切って、小割り区画をたくさん作る。各部屋に什器も用意する
- 1部屋ごとをエンドユーザーに貸す(「転貸っぽい」イメージ)
※「転貸っぽい」という表現については後ほどご説明します
こういう仕組みのビジネスです。別の言い方で「サービスオフィス」「シェアオフィス」「テンポラリーオフィス」なんて言い方をします。
ただ、「テンポラリーオフィス(temporary office)」だと直訳すると「一時的な事務所」「臨時拠点」という意味で、「単なる仮住まい」みたいなネガティブなイメージを与えてしまうので、最近はあんまり使わないですかね。
「サービスオフィス」は通常のレンタルオフィスよりもハイグレードな場合に使われるケースが多いです。
「コワーキングスペース」も概ね同じような意味合いで使われます。ただ、コワーキングスペースの場合だと、レンタルオフィスみたいに個室が作られていなくて、カフェのようなオープンスペースで、特定の席も決まっておらず、好きな位置で自由に働くという形態が多いです。
一方、「バーチャルオフィス」というと随分意味合いが異なります。これはレンタルオフィス事業者がサブ商品として提供していることが多いのですが、「住所だけ貸す」というサービスです。その住所には事務所としての実態はなく、単純に住所だけ貸してあげて、しかも、そこの住所で商業登記できるというものです。安いところだと月額1,000円程度で住所だけ借りられます。
バーチャルオフィスって、めちゃくちゃ怪しいですよね(;^_^A
ただ、このサービスを利用すると、例えば、東京の丸の内みたいな日本最高峰の事務所エリアでも、格安で住所だけ借りられるので、そこで登記もできるし、名刺にも丸の内の住所を記載できるんですよ。
このサービスを最初に考えた人、天才!!!…怪しいけど笑
レンタルオフィスの主なサービス
では、レンタルオフィスって具体的にどんなサービスがあるのかについて、契約形態からまとめていきます。
契約形式
エンドユーザーが締結するのは賃貸借契約ではなく、一時利用契約です。ホテルで数日間泊まったり、フィットネスクラブを利用したりする場合の契約に近いです。
そして、何より重要なのが、「賃借権は発生しない」と解釈されることが多いです。(けっこう微妙なお話なので後述します)
賃借権が発生しないということは、その場に居続ける権利がないので、レンタルオフィス事業者の都合でエンドユーザーを一方的に追い出すことが可能です。
実際、レンタルオフィス内で「いかがわしいビジネスの実態が確認された」「執務室内で喫煙した」「執務室内の電話で、頻繁に大声で暴言を吐いていた」等、利用規約違反に該当した場合に、契約の解除+鍵の交換という対応を取ったケースもあるんだとか…。
ご利用の際はきちんとルールを守りましょう(;^_^A
内装関連
前述の通り、什器備品類が備え付けなので、内装費用はかかりません。
インターネット回線→施設によっては有料サービスですが、契約さえすればそのまま使えます。
会議室→共用の会議室が有料で利用可能です。PCから予約できますし、時間単位で利用可能です。
打合せスペース→オープンスペースであれば無料で利用可能です。ただし、大声で話していると当然クレームが入るのでご注意ください。
複合機→共用部に用意されており、従量課金制です。もちろん、自前の複合機を専有部分に置くことも可能です(めっちゃ狭くなりますけど)。
まぁ、費用がかかるとすればPCや書類等の搬入費用ぐらいですかね。これもきちんと許可を取って自分で作業してしまえばお金はかかりませんね。
原状回復
こちらで事業用の原状回復について簡単にまとめておりますが、通常の事務所だと、原則すべて賃借人の負担にて原状回復する必要があります。
一方で、レンタルオフィスの場合、
執務室内→クリーニング費用のみ
備え付けの什器備品→汚損・破損等があれば補修費用が発生
原状回復費用としてはこの程度しかかかりません。もちろん、故意・過失により共用部分を破損等させたら、都度弁償する必要があります。
受付サービス
これも共用部分です。施設のグレードによってサービスの内容が変わります。
【通常のレンタルオフィスの場合】
受付スペースにモニターと電話機だけが置かれていて、そこから呼び出したい会社に内線電話をかけて呼び出すというのが一般的。
【「サービスオフィス」というハイグレード版の場合】
受付スタッフが日中は常駐です。
以前くろーずがオフィス仲介をやっていたときに複数社の多数の拠点を見学させてもらったんですが、このスタッフさんたち、マジで美人が多いです。しかも、だいたい英語や中国語の対応も可能!
さらに、オプションで『電話がかかって来たら自社の名前で対応してくれる』というサービスもあります。どういうことかと言うと、
≪通常≫
専有部分の固定電話に着電→受付スタッフが応答→「〇〇レンタルオフィスでございます」
≪オプション≫
専有部分の固定電話に着電→受付スタッフが応答→「くろーず鑑定でございます」
あたかも普通に事務員さんを雇っているみたいにできますwww
つまり、
受付スタッフにかかる人件費を浮かせることが可能です
まぁ、その会社の運用次第って感じですかね。
ちなみに、この受付スタッフがいる場合だと、飛び込み営業を完全ブロックしてくれるというメリットもあります。
賃料
これは比較するのが非常に難しいです。今まで説明してきた通りで、
レンタルオフィス→付加サービスが色々と付いている
通常の事務所→何もない単なる箱
という感じなので、そもそもの土台が違うんですよね。無理矢理専有部分の坪単価で比べると、レンタルオフィスの坪単価は通常の事務所の3~4倍くらいになります。
本当にエリアとか、運用の仕方によって費用感は異なるんですが、都内のオフィスエリア、かつ、比較的賃料が安価な場所で小規模オフィスを借りることを想定してざっくり比較してみました。
【前提条件】
- スタートアップ企業で社員は4名
- 面積は、
A.一般的なオフィスでは小割り区画でよくある面積(ネット面積)を採用
B.一席あたり3㎡とし、約4坪 - 2年間で移転
- サービスオフィスの受付サービスの利用はなし

年額賃料だけでみると、レンタルオフィスの方が100万円以上高いんですよ。
でも、内装費や原状回復費も考慮するとレンタルオフィスの方がかなり安くつくケースも多々あります。
また、内装の打合せにかかる労力もなくなるのは嬉しいですね(^^♪
都心部で少人数でやっている方は一度見積を取ってみてください。

その他サービス
他にもいくつかサービスがあります。
■バーチャルオフィス
前述の通りですが、仕事は自宅でやりつつ、登記上の住所だけ借りたいという場合に使えます。名刺や自社HPでもバーチャルオフィスの住所を使用できるので、自宅の住所を公表したくない場合にも使い勝手がいいですね(^^♪
■メンバーシップ
運営事業者によりますが、契約した施設以外の施設のオープンスペースも利用可能になります。
レンタル・バーチャルオフィスの世界最大手ブランド 【Regus (リージャス)】でメンバーシップ契約を結んだ場合。メインの契約拠点は丸の内、でも、海外出張でアメリカに行ったときにはアメリカの拠点のオープンスペースも利用可能になります。

ちなみに、全世界で4,000拠点以上あるらしいです(;^_^A
ちょこちょこ海外出張がある方には便利なサービスですね。
どんな会社に向いている?
色んな会社さんのニーズが考えられるんですが、下記のような方々に特に向いております。
自宅では仕事をしたくない
マンションタイプの事務所は嫌だ
オフィスエリアでそれなりにパリッとしたビルを借りたい
でも、人数は少ないし、初期費用はとことん抑えたい
大きなビルだと審査に通るか不安
(もちろん、個人事業主でも審査に通る可能性は十分にあります)
本国の組織規模は大きいんだけど、日本では無名なので大きなビルだと審査がなかなか通らない
面積は狭くてOK。でも、ハイグレードビルに入居したい
日本のオフィスマーケットがわからないので、まずは小規模オフィスを借りたい
英語対応できる受付スタッフが欲しい
システム会社さんとかでよく聞きますよね。
6カ月間の短期プロジェクトで使用したい
取引先との合同チームなので、拠点は本体と別で構えたい
守秘義務の関係で、拠点は本体と別で構えたい
本社は地方都市にあるが、顧客の本社が東京にあるので、東京、品川あたりで小規模な事務所が欲しい
東京進出の足掛りとして、まずは小規模オフィスを借りたい
運営事業者
おそらく、日本にレンタルオフィスが進出してきたのが、2005年前後ぐらい。当時はリージャスを始め、サービスオフィス系の会社が数社あるぐらいでした。
そもそも、超保守的な日本の不動産業界において、1フロアを小割りにして第三者に貸すなんてビジネスは存在し得なかったんですよ。
なので、進出当初は超怪しい目で見られてましたし、ビルオーナーにレンタルオフィス事業の話を持ち掛けても門前払いでした(;^_^A
でも、このレンタルオフィスという事業形態が徐々に不動産業界で認知され出したのと、意外と小割り区画のニーズがあるというのがわかってきたので、日系のあらゆる業者が参加してきましたね。
外資系だと、リージャス、サーブコープ、ウィーワーク、エグゼクティブセンター
大手デベ系だと、三菱地所、東急不動産、東急、野村不動産
中小系だと、事業者は無数に存在…
ということで、都心部であれば色々な事業者の色々な施設から選ぶことができます。



レンタルオフィスのデメリット
良いことばかりではないですね。ちゃんとデメリットもあります。
(実際に事業者から聞いた話をベースにピックアップしております)
スタートアップ時の利用で、通常のレンタルオフィスを利用している場合はほとんど関係ありません。
問題はハイグレードビルにあるサービスオフィス系を利用している場合。
- 一人でやっていそうなコンサル系
- 一人でやっていそうな広告系
- 聞いたことない太陽光関連
こういう会社が、丸の内にあるビルの高層階の住所を記載していたら
あれ?
って思いません?ネット調べると、だいたいその階にはサービスオフィスが入っているんです。
もちろん、サービスオフィスの利用がダメというわけでは全然ありません。外資系の超優良企業もめちゃくちゃたくさん利用してますからね。
でも、バーチャルオフィスで丸の内住所だけ使ってると思うと、その会社自体怪しいんじゃない?って思うのが人の性というもの…。
(逆に言うと、それだけ「丸の内住所」ってインパクトあるってことなんですけどね)
ということで、レンタルオフィスを利用していることでネガティブな印象を持たれるケースもゼロではありません。
これは上記の話とちょっと関連してくるんですが、レンタルオフィスの入居審査って、大手オーナーの審査に比べたらけっこう緩いです。(逆に大手オーナーの審査がかなり厳しいです)
その影響で、怪しい事業をやっている方が自分の隣や同じフロアに入って来る可能性があります。
前述の通りですが、隣人が
- いかがわしいビジネスを運営していた
- 執務室内で喫煙していた
- 執務室内の電話で、頻繁に大声で暴言を吐いていた
こんなケースも実際にあったんだとか。
でも、この点は大丈夫です。まともなレンタルオフィス運営事業者であれば、相談すればきちんと対処してくれます。具体的には、契約の解除+鍵の交換で施設自体に入れなくすることが可能なはずです。
困ったことがあれば運営事業者に相談しましょう。
前述の通り、レンタルオフィス事業ってそもそも日本になかったんですよ。でも、それなりにこのビジネスが浸透してくると雨後の筍のように、あらゆる事業者が参入してきたんです。運営事業者が、資本力のある会社だったり、不動産を持っていたりすれば与信的な問題は特に気にしなくて大丈夫なんです。
でも、「資本力もない」「不動産も持っていない」「運営のノウハウもない」こんな事業者の施設を利用してしまうと、
運営事業者が飛んで、突如施設が利用できなくなる
こんな事態が起こり得ます。(↑実際にあった話です)
これ以外でも、小規模事業者の場合だと、
- 選べる施設、使える施設が少ない
- 利用者間の交流会やビジネスマッチングがない
こういうデメリットもあるので、その辺は慎重にご検討ください。
不動産オーナーから見たレンタルオフィス事業
繰り返しになりますが、元々レンタルオフィス事業って日本になかったですし、不動産オーナーって超保守的なんですよ。
これにはちゃんと理由があってですね。
一旦、入居すると賃借権が異様なまでに強いから
これに尽きます。海外の賃借権と比べても日本の賃借権って異常に強いです。
本稿では簡単にしか触れませんが、例えば、家賃の滞納があって契約を解除したい場合
【日本】1~2カ月の滞納だと督促状を出せるだけ。3カ月以上の滞納があって、裁判を起こして、借主が支払の意思を全く示さなくて、今後も支払ってくれる見込みがない…こういう状況になって初めて強制退去までこぎ着けます。期間で言うと、半年以上余裕でかかり得ます。
【アメリカ】一日でも入金が遅れると、すぐに退去通告を出せます。オーナーがその気になって裁判を起こせば1か月で強制退去が完了します。
こんな感じで日本の賃借権って異常なほど強い権利なんですよ。裏を返せば、賃借人が法律で強く守られているという話になります。
ということで、一旦、レンタルオフィス事業者を入居させてしまうと、その事業者を追い出そうとしても余程の正当事由がない限り追い出せないんです。しかも、エンドユーザーの利用審査って基本的にはレンタルオフィス事業者が行うので、不動産オーナーが口出しはできないんですよ。なので、今でもなお、
不動産オーナーとしては、レンタルオフィス事業者を入居させたくないというケースが多いのが実情です
レンタルオフィスのエンドユーザーと賃借権
不動産オーナーとレンタルオフィス事業者は賃借権契約を締結するのが基本です。つまり、レンタルオフィス事業者には賃借権が確定的に発生します。
では、エンドユーザーは?
これは、前述の通りなんですが、レンタルオフィス事業者側の見解としては、賃貸借契約(転貸借契約)を締結しているわけではなく、あくまで施設利用契約を締結するだけなので「エンドユーザーには賃借権は発生しない」とのことです。
賃借権が発生しておらず、法律によって保護されないので、規約違反等があれば、事業者の判断で即時強制退去が可能となっているわけです。
ただ一方で、賃借権が認められる要件は、賃貸借契約の有無という形式的なものだけで判断されないという解釈もあります。
つまり、特定の場所に机やPC等の荷物を常に置いており、その場所で日常的に仕事をしているという利用の実態があれば自然発生的に賃借権が認められるという解釈にもなり得るようです。
実際に、エンドユーザーの賃借権の有無が争点になった裁判例を聞いたことがないので、争ったらどうなるのかわかりませんが、いずれにしてもかなりグレーな状況ではあります。
こういうグレーな状況があるため、不動産オーナーとしては、変なエンドユーザーを確実に追い出してくれるかわからなくて心配になるわけです。そして結論として、レンタルオフィス事業者は入居者させたくないという考えに至るケースが多いようです。